人類の想いを乗せて加速する
環境工学の世界

工学って何だろう?理工学という言葉があるから、理学と近いのかもしれない。でもその差は一体何だろう?
ひとつの考え方として、理学は真理を追究する学問で、工学は社会の役に立つための学問ということができる。「社会のさまざまな課題を解決していくための学問」が工学なのだ。人が生きていく上で、課題は尽きることがない。よって工学自体の領域も時代とともに拡大し、それぞれに進化している。環境工学もそのひとつだ。環境問題、食糧問題、エネルギー問題。今後人類が直面するさまざまな課題を解決し、豊かで持続可能な社会を創造していくための叡智が、ここにある。

いつまでも美しい地球で暮らすために、何が必要なのか。
豊かでサスティナブルな社会は、君たちが創造する。

先進のリモートセンシング技術が環境を守る。暮らしを守る。


宇宙・空・地上からのリモートセンシング技術

遠く離れた宇宙から、地球を監視している数々の人工衛星。この人工衛星が、私たちの暮らしにどのように役立っているかご存じだろうか? 近年、リモートセンシング(Remote Sensing)という技術の進歩が目覚ましい。「対象」を遠隔から測定する手段で、主に人工衛星や飛行機から、地球表面付近を観測する技術だ。以前から知られていた技術だが、今では想像をはるかに超える大規模な監視・測定が行える。例えば、地球に降り注ぐ雨量の変化を監視することも可能だ。地球温暖化に伴う気候変動により降雨量や特性等が年々変化している。私たちが生活する上で水資源への影響も大きい。そこで衛星を利用したリモートセンシングにより、地球全体での降水システムを把握することが重要と考えられ、JAXAでは複数の衛星を利用し、世界の降雨量分布を公開し洪水予測などの研究を推進している。地上に観測機器を設置できないような海洋上や山岳地帯の観測も容易に行えるのが、リモートセンシングの優れた点である。

水資源だけでなく、地球温暖化による海面上昇も私たちにとって脅威だ。地球温暖化が原因とされる海面上昇により、海抜の低い陸地が水没し始めていることは、すでにニュースなどでご存じだろう。脅威は海面上昇による水没だけでは無い。年々大型化する台風などの影響による大波により、今まで浸水したことのないような内陸部でも海水による被害が報告されている。被害想定や避難対策検討のためには、高波などによる浸水域のハザードマップが必要となる。そのために波の高さをシミュレーションすることになるが、シミュレーションには海底の地形データが不可欠であり、海岸付近の浅瀬のように船による測量ができない場所については、正しい情報を得ることが難しかった。そこでも注目されたのが、衛星データを利用して浅瀬の水深を推定するリモートセンシングだった。技術革新により、近年では必要な情報が容易に得られるようになっている。このように、リモートセンシングは、災害による被害を未然に防ぐ「防災」、さらには被害が集中したエリアを予測・判読し、救助活動などを迅速に行うための「減災」にも深く寄与している。人工衛星は、ただ宇宙を遊泳しているだけではない。遠い宇宙から常に地球環境を見つめ、私たちの暮らしを見守っているのだ。

飛ぶ。浮かぶ。モニタリングする。水陸両用ドローンがサンゴ礁を保全。

今年に入って、鹿島建設からユニークなプレスリリースが配信された。タイトルは「業界初、水面浮体型ドローンでサンゴ礁のモニタリング」。ドローンとは無人の飛行体であり、遠隔操作や自動操縦される小型のヘリコプターのようなものだ。それが、水面に浮くとはどういうことだろう?そのドローンは「SWANS」(スワンズ)と呼ばれている。SWANSは、浅海域における水生生物や地形の調査を目的に、防水性能を備えて開発された。加えて、機体のローター部4ヵ所と中央部に浮力を持たせることで、水面への安定した着水を可能にしている。鹿島建設は生物多様性の維持に向け、2013年に開発したサンゴ群集の人工基盤を活用し、沖縄県慶良間諸島海域においてサンゴ再生に向けた環境保全活動を継続している。今回、SWANSを活用することで、サンゴの分布状況や再生状況のモニタリングを効率的に行うことに成功したのだ。サンゴ礁域のモニタリングにドローンを活用するのは、業界では初の試みだった。沿岸浅海域におけるサンゴの分布調査では、サンゴの衰退を正しく評価するため、広範囲に調査できる技術開発が求められていた。従来の調査ではダイバーによる観察や写真撮影が中心だったが、波などの気象状況に左右されるため、広範囲にわたる調査には時間がかかるという課題があったのだ。ドローンを用いた観測は短時間で広域の撮影が可能となるが、上空からの観測だけではサンゴの種類や健全性の判別までは難しい。SWANSはこの2つの課題を見事に解決した。上空・水中両方の撮影によって、迅速かつ正確なモニタリングを可能にしたのだ。正確なモニタリングは、すべての活動の起点となる。沖縄の海が美しいのは、サンゴの働きによるところが大きいと言われている。そして、美しい海は人類、生物にとってかけがえのない財産である。空を飛び海に浮かび、サンゴをそして環境を守るドローン。人と地球の良好な関係を維持する環境工学の思想は、こんなところにも息づいている。

まさに和製スパイダーマン!?「地球を救いたい」と願った高校生の夢。

強靭性は鉄鋼の340倍、伸縮性はナイロンを上回り、耐熱性は300度を超える――。そう聞くと、一体どんな素材を想像するだろうか? 正解は「クモの糸」。お手本は自然界にあったのだ。そんな驚異的なクモ糸の特性を活かした、人工のタンパク質素材である「QMONOS®」が、慶應義塾大学先端生命科学研究所発のベンチャー企業から誕生したのは、今から約10年前のことだ。米軍やNASAをはじめ、世界中の研究者たちが人工クモ糸の生産を目指したが、いずれも実用化に至ることはなかった。そんな前人未踏の領域に踏み込み、世界初の偉業を達成したのが、Spiber株式会社の関山和秀氏だ。「人工クモ糸の産業化は、地球規模の課題を解決するカギになる」と言う。タンパク質でできたクモ糸は、化学繊維のように石油を使うことなく低エネルギーで生産できる。既存のさまざまな化学製品と置き換えることが可能である。産業分野では自動車や飛行機などの輸送機器や電子機器、医療分野では手術用の縫合糸や人工血管など、その用途は無限に広がるのだ。

関山氏が起業を夢見たのは高校時代のことだ。関山少年は、常々感じていたことがあった。それは「戦争や貧困は、資源の奪い合いから起こる」ということだった。世の中で一番大きなニーズは、資源、エネルギー、食糧といった人類が抱える問題の解決である。そのためのソリューションを提供する事業は、必ずや世のためになるはずだと、その当時から確信していたのである。

関山氏は大学の学部選択に迷う中、まるでクモの糸に導かれたかのように、バイオテクノロジーの世界的第一人者と出会う。関山氏の心を突き動かしたのは『あらゆる社会問題は、バイオテクノロジーが解決する』という言葉だった。文系の関山氏でも入れる学部だったのも、環境情報学部に進むことを後押しした。環境工学の世界は、なにも建築・土木だけに限定されるものではない。人と地球の良好な関係を維持することは、化学の分野からもアプローチ可能なのだ。

私たちの身の回りで使われている化学繊維は石油から合成され、合成時には大量の二酸化炭素を排出する。また、土壌中のバクテリアは化学繊維を分解することができないため、廃棄された後にいつまでも環境中に残ってしまう。使い勝手は抜群だが、環境に大きな負荷がかかっているのだ。しかし、合成タンパク質であれば石油を使わずにすみ、二酸化炭素も排出しない。またタンパク質由来であるために、バクテリアが分解できるのだ。軽くて強くて環境に優しい、まさに夢の新繊維だ。人類が抱える問題を解決したいという少年の夢は国家プロジェクトとなり、いまもなお広がり続けている。

CLOSE UP 日本大学 生産工学部 環境安全工学科

環境問題やエネルギー問題など、私たちの住む社会は大きな課題を抱えています。それらの課題を解決するために、多くの大学で日夜研究が行われています。その一つに日本大学生産工学部 環境安全工学科があります。さまざまな工学的視点で研究に取り組んでいるのが特徴です。「安全・安心で持続可能な社会をデザインする」をスローガンに掲げる同学科では、どのような学びが実践されているのか。詳しく紹介します。