―進む未来の都市づくり―
スマートシティとレジリエントシティ

スマートシティ、レジリエントシティ、という言葉を、皆さんは聞いたことがありますか? “スマート”は、スマートフォンの“スマート”と同じで、「賢い」という意味。高い情報処理能力に対して使われる言葉でもあります。一方の“レジリエント”は、「回復力が高い」などの意味で使われています。つまり、レジリエントシティは「回復力に富む都市」といえます。環境問題や大規模災害など、私たちの住む世界には課題が山積していますが、その解決を企図した新しい都市づくりが進められています。

未来の都市づくりを支えるのは、先端の技術や知識。多様な角度からの研究が取り組みを前進させる。

スマートシティってなんだろう?

スマートという言葉を、高い情報処理能力を有する「賢い」という意味で捉えると、スマートシティは、あらゆる情報が効率的に連携し、最適化された都市ということができます。そもそもスマートシティという概念が生まれた背景には、エネルギー問題が根底にあります。国連(United Nations)は、2015年の世界人口は73億人、2050年までには90億人を突破すると発表。このままではエネルギー消費は爆発的に増加し、近い将来に枯渇することが予測できることから、「エネルギーを消費するだけの時代から、エネルギーを『つくる』『蓄える』『賢く使う』ことを前提に、ITの力を駆使しながら環境負荷の少ない都市をつくろう」と、スマートシティのプロジェクトが起こりはじめました。また、それだけではなく、「環境に配慮しながら、快適で豊かに生活するにはどうすればいいか?」について複合的に考えることが、もうひとつのテーマとなっています。

世界中の先進都市でこの取り組みは盛んになっており、日本でもさまざまな都市でスマートシティプロジェクトが推し進められています。

2014年、神奈川県藤沢市において官民一体となり誕生した「Fujisawa SST(藤沢サスティナブル・スマートタウン)」もそのひとつ。1000世帯もの家族が住むこの街は、新たなスマートシティのモデルケースとして注目を集めています。これまでのスマートシティは、“技術起点”で、インフラを構築し、住宅や暮らしのサービスを提供するものだったのに対し、「Fujisawa SST」は、どんなサービスが安心で快適な暮らしを実現するかを考え、住宅や街を設計。最後に暮らしを支えるインフラを構築するというように、これまでとは逆のアプローチを採用。“暮らし起点”の街づくりとなっています。

このプロジェクトには電気、ガス、住宅、通信、運輸など、インフラ系企業だけでなく、教育や医療福祉、セキュリティなどのQOL※1向上に関連する企業も参画。さまざまな切り口から、理想の街づくりへのアプローチが行われているように、企業にとっても大きなビジネスチャンスとなっています。環境にやさしく、暮らしにうれしい、そして経済的発展にもつながるサスティナブルなスキームが形づくられているスマートシティ。今後の技術の発展に合わせて、市場規模も拡大していくと考えられています。

※1 Quality of Life/物理的な豊かさだけでなく、精神面も含めた生活の豊かさを意味する言葉。


タップで拡大表示

スマートシティ Fujisawa SSTのサービス取り組み例

エネルギー
各住宅は、太陽光発電を最大限活用し、蓄電ユニットも装備。設備や空調などをコントロールするマネジメントシステムで、快適な省エネを実現。
モビリティ
電気自動車や電動アシスト自転車のシェアリングサービス、レンタカーデリバリーサービスを実施。自宅のテレビやスマホから空き状況の確認や予約が可能。
コミュニティ
独自のポータルサイトでは、家庭のエネルギー使用量の確認、地域サービスやポイントサービス、コミュニティ内での情報交流の場を提供し、住民同士の交流を活性化。
セキュリティ
街の随所に見守りカメラと照明を効果的に配置。各住宅にはスマートテレビを設置し、災害情報などをリアルタイムに配信。
ウェルネス
福祉施設、薬局、各種クリニック、保育所、学童保育、学習塾などが一体となったウェルネス スクエアをつくり、人と人がつながる健やかな毎日を提供。

“想定外”をなくすのがレジリエントシティの都市づくり

スマートシティが環境と共生し、現在・未来の快適な暮らしを見据えたものであるのに対し、レジリエントシティとは、スマートシティの考えを内包する、さらに広義的な都市づくりを意図するものといえるでしょう。レジリエンスとは、直訳すると「しなやかさ」「回復力」という意味。東日本大震災をきっかけに徐々に注目されはじめ、「今後起こりうる危機に対し、どのようにダメージを回避・軽減するか」「危機を乗り越え、より良く発展していくにはどうすればいいか」といった、都市におけるリスクマネジメントと未来志向的な要素が合わさっています。

私たちが暮らす日本は、常に自然災害と隣り合わせの国。それだけに、他国と比べても災害に強い国というイメージを漠然と持っていましたが、東日本大震災、熊本地震、そしてここ数年で急増したゲリラ豪雨などによってその脆弱性が明るみに出ました。また少子化による人口減少への対策は喫緊の課題であり、緊張状態が続く北朝鮮問題、ヨーロッパで頻繁に起こっているテロも決して他人事ではありません。レジリエンスは、今後起こりうる可能性を“想定外”では済まさずに、上手く適応できる力を備えることに他なりません。

アメリカのロックフェラー財団では、「100のレジリエントシティ」と題して、世界の100都市を対象にレジリエンスの向上を支援する取り組みを2013年より開始。世界中から1000以上の都市が立候補するなど、その注目度は高く、日本からは京都市と富山市が選ばれました。このほど、富山市ではレジリエンス戦略「富山ビジョン2050」を策定したばかり。人口の減少やインフラの老朽化、豪雨による河川の氾濫などの課題を抱えていた富山市では、「人々」「インフラ」「経済」「環境」の4つの課題において具体的な戦略を打ち出し、最先端の技術を活用しながら、強く、しなかやで、人々に希望を与えるレジリエントな都市づくりが始められています。レジリエントシティの概念については、社会的認知は低いものの、さまざまな危機や課題を抱える世界の都市国家において、今後ますます重要性を増していくでしょう。その発展を支えるのが、企業の技術開発、大学での研究になってきます。

工学が牽引する都市のスマート化とレジリエント化

前述したように、「スマートシティ」「レジリエントシティ」ともに、環境や安全の視点を交え、人々の豊かな暮らしを見据えたものであることから、すべての学問からさまざまな形でアプローチできるものと考えていいでしょう。とりわけ、工学からアプローチする環境やエネルギー、安全との結びつきは強く、それらの学びは21世紀の街づくり、都市づくりを牽引する学問であることは間違いありません。

東日本大震災における教訓を生かし、防災や減災、メンテナンスといったインフラの再整備はもちろん、環境負荷の少ないサステイナブルなものに変換する技術、少ないエネルギーで快適な暮らしを実現する技術、非常時にも絶対的な安全を支える技術など、工学技術には大きな期待が寄せられています。特に複合的な視点が求められる都市づくりにおいては、工学の技術や知識はもちろん、それらをさまざまな知見や事柄と重ね合わせて考え、提案し、生かすことができる人材が求められているといえるでしょう。

CLOSE UP 日本大学生産工学部 環境安全工学科

環境問題やエネルギー問題、また大規模災害対策など、私たちの住む社会は大きな課題を抱えています。その解決のために多くの大学で日夜研究が行われていますが、その1つとしてさまざまな工学的な視点で研究に取り組んでいるのが日本大学生産工学部 環境安全工学科です。未来の街づくり・都市づくりに欠かすことのできない工学技術を習得するこの学科では、どのような学びが実践されているのか紹介します。