進学時のとまどいはなぜ起こる
─「小1プロブレム」「中1ギャップ」「高1クライシス」を防ぐ教員の役割とは─

小1プロブレム」や「中1ギャップ」という言葉を聞いたことはありますか?最近では、「高1クライシス」という言葉も一緒に取り上げられるようになりました。「問題」「大きなズレ」「危機」「つまずき」。ネガティブな意味を持つこれらの言葉は、子どもの進級時や進学時に、いじめや不登校などの問題が増加する現象のことを指しています。急激な環境の変化や心身の発達などが作用しあって起こるものと考えられていて、学校現場では以前より重要な教育課題として受け止められてきました。今回のVOICEでは、こうした子どもの成長過程で生じる様々な課題を取り上げながら、子どもの発達段階ごとの特徴や、今、学校現場で教員たちに求められている役割について考えてみましょう。

問題解決の鍵は、子どもたちの多様な状況に対応した
学校間の円滑な接続

「小1プロブレム」「中1ギャップ」「高1クライシス」って何のこと?

メディアでも取り上げられる機会の増えた、3つのキーワードについて、まずはその意味を確認していきましょう。

小1プロブレム」とは、小学校に入学したばかりの子どもが、新しい環境に馴染めず、例えば、集団行動がうまくできない状態や、授業を静かに受けられない状態が継続する現象のことです。幼稚園や保育園などで、遊びを通じた教育を通して主体性を育んできた子どもたちが、小学校に入って突然、規律を重視した教育を受ける、つまり、先生の言う通りに行動することを求められるようになり、戸惑ってしまうことが原因のひとつだと言われています。

中1ギャップ」は、中学校に入学したばかりの生徒が、環境の変化や学習内容の変化に馴染むことができず、不登校になったり、いじめなどの問題が増加したりする現象を指します。具体的には「集団が大きくなり、人間関係が複雑になる」「一番上の学年から、急に一番下の学年になる」「定期試験の結果が重視されるようになり負荷が増える」「学級担任制から教科担任制に変わる」といった、様々な変化がその要因だと言われています。

高1クライシス」も同様に、高校へ入学したばかりの生徒が学習や生活面での変化に適応できず、不登校になったり、すぐに退学したりしてしまう現象のこと。学区が広範囲になることで、幼少期からのつながりが切れて新しい人間関係を構築しなければならなくなったり、学力レベルの近い同級生に囲まれることで自分の得意分野がそれほどでもないと気づいて自信を喪失したり、といったことが主な原因だと言われています。

一人の子どもの成長を考えた場合、幼稚園・保育施設~小学校、小学校~中学校、中学校~高校といった校種間の移行に連続性が求められるのは言うまでもないこと。ですが従来は、校種ごとにそれぞれ独自の教育観が確立されていたこともあり、先生たちの指導法も子どもたちへの接し方もほとんど共有されてはいませんでした。

子どもの発達や学びの連続性を確保する

こうした進級時や進学時の不適応といった問題が、メディアで頻繁に取り上げられ、保護者たちにも知られるようになったのは、比較的最近のことですが、学校現場では、もう20年近く前から、校種間の連携や接続の在り方に大きな課題があることが指摘されていました。

異なる校種についての理解を深め、その理解を前提とした連続性のある指導計画を作成することや、それぞれの校種が、子どもたちに関する情報を次の学校段階に引き継いでいくことが重要だという考えは、教育現場全体の共通認識として徐々に浸透していき、現在は、乗り入れ指導や授業交流、運動会や文化祭の合同開催、教員の合同研修を実践する学校も多く見られるなど、様々な形で連携や接続の改善が進んでいます。

2016年には、小学校とも中学校とも異なる、新たな校種「義務教育学校」や「小中一貫型小学校・中学校(併設型と連携型の2種類)」の制度も創設されました。2017年に文部科学省が公表した、小中一貫教育の導入状況調査によれば、2017年時点で、義務教育学校は48校(うち国立2校)、併設型一貫校は253校(うち国立1校、私立6校)設置されていて、さらに2023年までに、義務教育学校は100校、併設型一貫校は525校設置する見通しとのこと。また、2020年に施行される新しい学習指導要領でも、「初等中等教育の一貫した学びを充実させるため」として、幼小・小中・中高といった異校種間の円滑な接続が重視されています。「プロブレム」「ギャップ」「クライシス」を解消するための、一貫教育や、子どもの発達の段階を考慮した異校種間の連携は、今後もますます進んでいくでしょう。

Column 学校段階をどう区切る?


※予定を含む。
回答:100校(義務教育学校設置及び設置予定校数)
「小中一貫教育の導入状況調査」より(文部科学省、2017年3月1日調査)

日本では6-3(―3)年制の学校教育制度が長く浸透していますが、学びの連続性を重視する一貫校では、グラフのとおり4-3-2年制が主流となっています。今後は地域や学校の特性に応じて、さらに柔軟な年限設定がなされるかもしれません。

海外に目を転じると、一般的にアメリカの教育制度は学区(schooldistrict)と呼ばれる地方教育委員会の取り決めに従って運営されているため、学校段階区分なども、学校がある地域ごとに異なっているのが特徴です。多様と言ってももちろん時代ごとに主流はあって、1960年頃までは、8-4年制、6-6年制、6-3-3年制が一般的でした。しかし近年はミドルスクールの増加にともない、5-3-4年制あるいは4-4-4年制などが増えていると言われています。

これからの教員に求められるスキルとは

一貫教育を実施するに当たっては、それぞれの校種の教育課程の連続性を確保していくことが重要であり、教員たちにも、互いの学校の教育課程を理解することが求められるのは言うまでもありません。例えば小学校の教員は、自分が指導する内容が中学での学習にどのように繋がっていくのかを理解しながら指導し、中学校の教員は小学校における学習の内容や程度を把握した上で、それぞれの指導をすることが必要になります。その際、例えば教員同士の意見交換などを通じて、互いの学力観や授業観を一貫したものとし、連続性を担保するのも大事なことです。ただ一方で、それぞれが子どもの発達段階に合わせた教育に取り組んでいるわけですから、連携が進んでいくほど、各校種の独自性を尊重していくことも、今後は重要になっていくでしょう。

また、当然のことながら教育現場のすべての問題が、進学時のとまどいによって起こっているわけではありません。「小1プロブレム」や「中1ギャップ」という言葉を意識しすぎると、問題の本質を見誤ったり、間違った対応をしてしまったりする恐れがあるということも頭に入れておくべきです。これからは、特別支援教育に関する知識や技能などもすべての教員が有している必要があるでしょう。そして何よりも大事なのは、目の前にいる子ども一人ひとりに寄り添い、その成長を支えることです。そのためには子どもをしっかり見る目を養わなければなりません。それから、これは身につけるスキルとは異なりますが、教員は自分自身の学びも疎かにしてはいけません。「良好な人間関係を築くことのできる社会人」「生涯、学び続ける憧れの大人」として、生き生きとした姿を子どもたちに見せ続けていくことも大切な役割だからです。

CLOSE UP 文教大学 教育学部

これからの時代、どの校種・教科の教員をめざすにしても、子どもの発達や学びの連続性・多様性を理解していることは不可欠と言えるでしょう。次のページでは、「子どもの学びをつなぎ、子どもの未来を拓く教育者」の育成をめざす、文教大学教育学部 発達教育課程の学びを紹介します。