お笑い芸人 パトリック・ハーランさん

僕も高校時代は燃えていました。「学校にも楽しみを見つけられるオレってすごいぞ!」って、みんなも燃えてほしいな。

ハーバード出身のお笑い芸人で、役者や声優、テレビの司会やコメンテーター、国立大学の講師など、マルチに活躍する“インテリ芸人”のパックンこと、パトリック・ハーランさん。
そのパックンに、ハーバード流の授業や、発想力の鍛え方、高校や大学の思い出などのお話を伺いました。

幼稚園児にはあふれていて
高校生は失ってしまうもの

今の高校生はパックンのことをお笑い芸人だと知らないかもしれませんね。

パトリック・ハーランさん(以下 パックン)

お笑い芸人としてはテレビで見る機会はないかもしれないけど、今でも漫才はやっていますよ。「国際教育」や「国際交流」、「アクティブ・ラーニング」など、いろいろなテーマで講演会に呼ばれるのですが、講演会の中では必ず漫才やコントを入れています。せっかくお笑い芸人を呼ぶんだからね。そうした講演会で高校生と触れ合うこともありますよ。

日本の高校生はどんな印象ですか?

パックン

アメリカの高校生と比べると、倫理道徳のレベルも、教育の水準も高く、たとえグレたとしても程度が可愛い。アメリカは、その度合いが違いますから。高校で講演するときも、皆素直に聴いてくれるし、いたっていい子ばかりです。
ただ、ちょっとおとなしすぎると感じる面はありますね。アメリカの高校生と比べて、自己主張や議論があまり得意でなく、独自な発想も苦手というような印象を受けます。

耳の痛い話ですね。

パックン

ただ、日本の教育ではそうした力が求められていないから、しょうがないですけどね。僕が講演会で「~をやってみたい人―!」と参加を呼びかけると、幼稚園児は全員手が上がる。小学生は低学年だと手が上がって、高学年では少し減り、中学、高校と進むごとにどんどん減っていくんです。大学生になると、ほぼゼロ。社会人も少ない。で、一定の歳を越えたおばちゃんになると、また参加率が上がる!
やる気がないのか、それとも周りから「目立つな」という圧力に負けているのか、理由はわからないけど、そのあたりが日本の高校生のちょっと残念なところ。しっかり自己主張して、どんどん前へ前へと進むような高校生がもっと出てきてほしいなと思いますね。

外国語よりも大事なのは世界が求めるプラスαの発想力

パックンは東京工業大学で非常勤講師もしていますが、どんなことを教えているのですか?

以前はコミュニーションについて教えていましたが、今は「国際関係理論」の入門編を教えています。リアリズムとリベラリズム、そしてコンストラクティビズム――これは、国際社会は我々個人の思想や活動から構成されるというもの――という国際関係の主要な3つの理論を学ぶ授業です。
この3つのセオリーを把握した上で、新聞やテレビのニュースを見ると、ニュースを理解する力だけでなく、次にどうなるのかという予測力もつく。だから学生たちは社会に対する関心も湧いて、自分もそれに関わっていきたくなる、と僕は信じています。実際、15コマの授業を終えた学生の感想を読むと、皆そういうことが書いてあるので、うれしい限りですね。

笑いにあふれた授業なんですか?

パックン

レクチャーは超楽しいですが、ぶっちゃけ、僕は厳しい先生ですよ。理系の大学なので、文系の授業を休憩代わりに使う学生も中にはいますが、僕は授業中に寝るのも許さないし、遅刻も許さない。遅刻した学生からは500円の罰金を取ります。
しかも、宿題の量が半端ない。毎回宿題を出して次の授業までに用意してもらい、それをもとに学生同士でプレゼンし合ってもらいます。参加型の時間もあるし、講義中にも学生たちに質問を投げかけるし、朝一で始まるのにテンションの高い授業です。

やはり、それはハーバード流の授業なのですか?

パックン

そう、僕がハーバードで受けていたような授業をやってます。文系の学問のおもしろさを学生たちに提供したいし、厳しさも知ってもらいたい。6年前に初めて開講したときは300人ぐらい履修登録があったんですよね。それが学期の最後の頃には90人ぐらいまで減って…。その評判が広まり、今は40人ぐらいなんですが、ちゃんとついてくる学生は皆偉いと思います。

パックンがその授業で伝えたいことは、どういうことですか?

パックン

国際的な感覚を持ってほしいと思っています。もう日本は島国じゃないので、世界の中の日本、地球人としての自分という概念を持ってほしい。と同時に、学業に対する熱意やプライドを育て、妥協しない自分もつくってほしいですね。
日本の学生は、親とか教師とか誰かが敷いたレールの上を走る人が多いような気がします。そして、人から与えられた課題をこなしていく。でも社会に出ると、課題を出してくれる人がいるとは限らない。社会に出たら自分の人生は自分自身のもの。鉄道に乗ってレールの上を走るのではなく、荒地を走る四駆のビーグルに乗ったと思ってほしいんです。

今、日本ではしきりに「グローバル化」が言われますが、「グローバル人材に必要な力」とは何だと思いますか?

パックン

英語にこだわる必要はないし、外国語ができるに越したことはないんだけれど、それよりも僕は、世界が求める発想力や発信力、情報処理能力などを身につけることが大事だと思います。例えば、企業の中で「~をやって」と言われたときに、「それ、こうした方がもっとよくならない?」って、そこに何かプラスαの付加価値をつけられる人が求められているんじゃないでしょうか。それを遠慮なく上司に提案して、実現させる。国際的な感覚を備えた上で、そういう力を持っているといいと思いますね。

国際的な感覚を磨くには、海外留学も大切ですよね?

パックン

留学体験も大事だけど、どっかに住みつくのもいいんじゃないかな。学校に行かなくていいから! これは大学を出てからでもいいんですが、僕と同じように、どこかの国で働いて、ゼロから言語や文化を覚えて……という海外体験もありだと思います。僕自身、こういう人生になるなんて想像もしなかったし、少しも後悔していない。冒険してほしいと思いますね。