プロクライマー 大場 美和(おおば みわ)さん

登りきれなくても、その“理由”を考え、トレーニングで克服する。目標に向けて一歩一歩努力を重ねていく過程は、クライミングも受験勉強も同じだと思います。

高校生時代に、「校舎をよじ登る女子高生」のCMでブレイクし、飲料水のCMでも三浦知良選手と共演して話題となった大場美和さん。東京オリンピックのスポーツクライミング代表候補として期待されるも心機一転、自然と向き合うフリークライマーの道を歩み出しました。
彼女を虜にした、自然の岩との「一期一会」の出会いの魅力や大きな方向転換を決断するまでの葛藤について、お話を伺いました。

自然の岩に向き合い
自分だけの力で挑戦する喜び

大場さんは、近年は自然の岩を登るフリークライミングで活躍されていますが、その魅力はどんなところにありますか?

大場 美和さん(以下 大場)

クライミングは、もともと自然の岩や山を登るところから始まっています。岩や山は自然にできたものなのに、そこには人が登れるだけの取っ掛かりみたいなものがあって、下から上までそれがつながっているのは、すごいことだなと思って。
自然の岩は同じものはひとつもありません。その中で、自分が登りたいなと思った岩でも、すぐには登りきれないことがほとんどです。それを克服するためにはどうすればいいか考え、必要なトレーニングで力をつけて岩に再び挑戦します。また天候や湿度、気温など、その日のコンディションによって登る難しさも変わってきます。岩もその周囲の環境も、すべて自然にできたものの中で、自分の身体ひとつで打ち勝つことに魅力を感じています。
自然の岩の場合でも、ボルダリングでは下にマットを敷きますし、リードクライミングはロープを掛けながら登ります。それでも人工壁の環境より、リスクは大きいですね。「今のは落ちていたらヤバかったな」という場面もありました。でもそのスリルの中で登るということも、おもしろさのひとつです。

自然と向き合う難しさが、人工壁のスポーツクライミングとの大きな違いですか?

大場

自然の岩だと高さはそれぞれで、たとえ低くても登るのは難しい場合もありますし、高いけれど最後の方は簡単にすんなり登れたりすることもあります。ただ、ジムなどの室内でも外でも「登る」ということは同じです。
まずどんなルートで登るかプランを立てます。どんなに身体的に登れる力があっても、どう登っていくかを考える発想力・ひらめきがなくては最後まで登りきることはできません。そして、うまくいかなかったら何がいけなかったのかを考え、それを改善して再び挑戦する。そうやって繰り返しながら、その岩の最善の登り方を突き詰めていきます。最初にトライしたときは、絶対に登りきれないと感じた岩でも、挑戦していくうちに登れるようになるんです。自然の岩は何百年も変わらずにそこにあるので、こちらも焦らずじっくりと時間をかけて攻略していくイメージですね。そこが時間制限やルールのある競技としてのスポーツクライミングと違うところかもしれません。

自然の中での「一期一会」に感動
世界中の岩に登ってみたい

現在は、海外の岩に挑戦する、クライミングの海外ツアーに参加することも多いとお聞きしています。印象深かったのはどちらですか?


2018年11月6日、フランスのフォンテーヌブロー
というエリアにあるBig Golden に挑戦。
難しくて登りきれなかったが、強くなって必ず
再挑戦したい岩だそう。

大場

去年の11月にフランスのツアーに参加しました。フォンテーヌブロー(Fontainebleau)という森にあるエリアで、その中にたくさん岩が点在しています。世界的にも有名なボルダリングの聖地、クライマーなら一度は挑みたいエリアです。
高さ3~4mの岩がたくさんあって、それぞれ難しさに応じてグレード(難易度)がついています。今回は、自分が登れるグレードで一番難しいものと同等の岩をいくつも登りきることができました。同じグレードの岩でも、実際に自分が感じる難しさはそれぞれの岩で違って、まぐれで登れることもあります。しかし今回は、そのグレードの岩をきちんと登れるだけの実力が自分についたんだなと実感できたツアーでもありました。それに、海外のクライマーの方と交流できるのも、刺激になっています。
フランスのツアーでは、ひとつだけ登れなかった岩がありました。もう本当に惜しいところまでいったのに登りきれなかった。2週間のツアーでの最後にチャレンジしたので、もう1日あればとも思いましたが、やはり自分の実力が及ばなかったのかなと。そこはもう一度、今すぐにも行って登りたい目標ですね。

国内ではどんなところに行かれているんですか?

大場

国内では山梨の瑞(みず)牆(がき)山(やま)や栃木の塩原、愛知の豊田、伊豆の城ケ崎にも行きます。エリアによってシチュエーションが様々で、例えば城ケ崎だったら海の近くなので、波の音を聞きながら登ったりできるのがいいですね。また、フォンテーヌブローは、自然豊かな森の中ですし、今年1月に行ったアメリカは、砂漠の中に岩がポツンとあるようなところで、一つひとつの岩が大きくて、ボルダリングで登るには非常にダイナミックな環境でした。その岩だけでなく周辺の環境を含めて、肌で感じて楽しんでいますね。

ツアーの魅力はなんでしょうか?

大場

ツアーの場合、本当にクライミングだけの生活なので、朝起きて準備して、岩に行って登って、帰ってきて寝る、そんな毎日の繰り返しです。世界にひとつしかない岩との出会い、その「一期一会」に感動し、自分の限界にチャレンジできるのが、最大の喜びですね。

CHECK! フリークライミングとスポーツクライミング

フリークライミング
岩場を安全器具以外の道具を使わずに登る、ロッククライミングの一種。シューズとチョーク(滑り止めの粉)だけを使う「ボルダリング」と、クライマーが安全ロープを途中に自ら掛けながら登る「リードクライミング」、安全確保のためにあらかじめ設置したロープを使う「トップロープクライミング」がある。自然の岩場で行われるが、インドアなどに人工的に作られた壁を登るものも、フリークライミングに含まれる。

スポーツクライミング
フリークライミングを、より安全な環境でできるようにしたもので、主に人工の壁で行われる。競技には、制限時間の中で決められた課題をいくつ登れたかで競う「ボルダリング」と、制限時間はなく1回のチャレンジで登れた高さを競う「リード」、決められた壁のコースを登る速度を競う「スピード」がある。2020東京オリンピックでも正式種目として採用。オリンピックでは3種の競技をすべて行いトータルの得点で競う、「複合(コンバインド)」が採用されている。