東京大学大学院教授 ロバート キャンベルさん

近世・近代文学を専門として東京大学大学院の教授をつとめる傍ら、テレビのコメンテーターなどでも活躍されているロバート キャンベル先生。日本文学への造詣の深さや、日本語を流暢に扱う様子から、日本への敬意が伝わってきます。そんな先生に、グローバル人材として活躍するために必要なスタンス、そして古典文学のおもしろさから、先生の青春時代の思い出などのお話を伺いました。

グローバル人材をめざすなら現在と未来の課題を明確に

現在、多方面で「グローバル」という言葉を耳にします。これからの若い人たちが、先生のようにグローバルな人材になるためには、どのようなことが必要なのでしょうか。

ロバート キャンベル教授(以下 キャンベル)

自分をグローバルな人材へと成長させていくためには、すぐ目の前にあることと、ちょっと遠い未来のことを、遠近法で見比べながら、両方を考えて生きることが重要です。つまり、すぐ目の前にある課題のひとつとして、まずは英語とか中国語、韓国語、イタリア語……何でもいいのですが、外国語を身につけることで、自分自身が世界とつながる通路をつくるということ。ただ、通路を開いたからといって、そこを流通させるコンテンツがないと、グローバルとは言えません。ですから、未来の課題としてどういうものを自分のコンテンツとしたいのか、自分のやりたいことを早い段階から考えてほしいですね。10代の若者なら、その選択肢は5つぐらいあってもいいと思います。「こういうことに興味がある」「こういうことをやりたい」「ではそれを達成するためには何が必要か」ということをできるだけ前倒しで考え、そこに向けて時間をかけて学んでいくべきだと思いますね。

第一関門である外国語を習得するうえで、何かアドバイスはありますか?

キャンベル

例えば、英語を学びながら、実際にそれを使う場に積極的に身を置くことが大切ですよね。留学も含めて。同時に、日本語を使うこともおろそかにしてはいけないと思うんです。私は日本語と英語と、時々フランス語を使って生きていますが、今は日本語中心だから英語は放っておいていいかというと、決してそうではない。英語は英語で意識して磨いていかないと、自分自身が持っている英語的な感性や世界観というものが発展していかないんですよね。しかも、その感性や世界観は、いろんなところにつながっています。

ですから、自分は日本人だし、日本語は空気みたないものだからと思わないでほしい。自分の母語は筋肉と一緒で、使うほど強くなったり、しなやかになりますが、使わないと衰えてしまいます。それはいろいろなところにつながる自分の基盤となるもの。そういうところも意識してもらえるといいかなと思いますね。

 

江戸~明治初期の文章はリズミカルで奥行きがある

先生は江戸時代後期から明治時代にかけての日本文学が専門ですが、そのおもしろさはどういうところなのでしょうか?

キャンベル

高校生のみなさんもよく知っていると思いますが、昔の日本語は、現代の日本語からは相当遠い言語だと感じますよね。だからもちろん、江戸時代の文章表現も、現代のものと比べるとずいぶん違います。例えば、当時は基本的に音読をする習慣があったので、七五調だったりと、文章のリズムをとても大切にしています。現代の私たちはその文章を黙読しますが、それでも読んでいて気持ちがいい。リズム表現としての快さがあります。また、そのような音声的なことだけでなく、典故表現もおもしろさのひとつなんですよ。

典故とは、当時すでに古典となっている作品の文句や故事などを引用することですね。

キャンベル

何かひとつのことを表現するのに典故を使うことで、そのもののイメージを増幅させたり、連想させたり、あるいは別の心情を重ね合わせたりして、表現自体に奥行きが生まれるんです。例えば、樋口一葉の文章を読むときに、勅撰和歌集に使われている歌語や王朝物語の文学に通じていれば、それらを知らないで読んだときとはまた違った風景や心情が見えてくるはずです。明治時代に言文一致体が生まれてくるのですが、言文一致でないと表現できないことがたくさんある反面、言文一致体では言い表せないこともたくさんあるんです。

大学入試の勉強だけでは、なかなかそこまで古典のおもしろさを感じるのは難しいかもしれません。

キャンベル

短期間で知識を習得して試験で正解を出せるようにする、というのが、大学入試対策としての高校での「お勉強」。大学では、古典を読み解き、そこに何が書かれているのか、どのような背景で、どういうモチベーションで人物が戦いをしたり、恋愛をしたりしているのかを考えることができるんです。そのような面でも、大学での勉強を楽しみにしてもらえるといいですね。

先生は学部1年生の講義も担当されていますよね

キャンベル

その講義では、いくつかの入口をつくっておくように心がけていますね。つまり、古典の世界について一歩踏み込んで理解するために、他の文学や他の時代、他の分野と対比させながら、書かれていることを自分たちのこととして考えてもらう、という講義をしているんです。理系の学生も文系の学生もいますが、おもしろいことに理系の学生が特に漢文に食らいついてくるんですよ(笑)。

 

東京大学大学院教授 ロバート キャンベルさん