映画監督/演出家 堤 幸彦(つつみ ゆきひこ)さん

人気ドラマ『TRICK』や『SPEC~警視庁公安部公安第五課未詳事件特別対策係事件簿~』などの人気作品を手がけ、演出家としてもテレビ、映画、舞台にと幅広く活躍。現在は大学の客員教授や現役の大学生としても多忙な堤幸彦さんに、高校時代の思い出、映像の仕事や作品に対する思いについて語っていただきました。

河合塾の夏期講習も受講した ロックに夢中な高校時代

堤さんは名古屋ご出身ですが、高校時代はどのような生徒だったのですか?

堤 幸彦さん(以下 堤)

高2と高3の時に、河合塾の夏期講習にも通っていましたよ(笑)。ただ私自身は勉強が全くダメな生徒だったので、塾の授業についていくのがやっとでしたけどね。
正直に言うと、高校時代はコンプレックスの塊でした。めざしていた公立高校の入学試験に落ちて、私立高校に入学しました。今はその高校も変わりましたが、僕が通っていた頃はいろいろと規則が厳しかったので、それに対する反発からロックバンドの活動ばかりやっていましたね。

ロックのどんなところに惹かれたのですか?

現実の自分の人生は、高校の先生からは問題児とされ、中学の仲間からは本気を出していない格好悪いやつだと思われていて、どこにも行き場がなかった。唯一、家の中でロックを聴いているとき、そこには自分の気持ちをすくいとってくれる世界が広がっていて、勇気づけられたんです。それは、社会を簡単に信用すべきではないという精神や反抗心かもしれません。「明日はどうなるかわからないけれど、自分がそこにいればそれでいいんだ」という、《ロックの魂》というようなものを様々なミュージシャンの音楽から感じていました。
高校の時もそうですが、テレビの仕事を始めた駆け出しの頃も、ロックは救いになったし、現実に立ち向かう僕の支えになった。その後の生き方でも大きな影響を受けましたね。

それほどロックに夢中になっていて、ミュージシャンをめざそうとは?

ミュージシャンになりたいと思ったこともあったけれど、自分には無理だということもわかっていました。高校卒業後も親元にいればそれなりの人生を送れるけど、それでいいのだろうかと思って、東京の大学を志望しました。当時は日本語でのロックミュージックが出てきた頃で、東京に出たいという理由のなかには、東京のロックの雰囲気に触れたいという気持ちもありました。
ただ、僕は皆と一緒のことをやるのが嫌いなひねくれ者だったので(笑)。親の手前、塾には通いましたけれど、皆と同じことをやって結果を得るのだったら、自分なりのやり方で失敗した方がいいと思っていた。志望大学の合格に向けて、最小限の努力、最短の手間で合格をめざす自分なりの方法で受験勉強をしていましたね。

若き日に通った法政大学に通信教育で再入学

高校卒業後、法政大学社会学部に入学しますが、その頃は将来をどう考えていたのですか?


今の若い人たちがどう思うかはわかりませんけど、僕が入学した頃はまだ、学生運動といって、学生が社会に対してプロテスト(抵抗、反抗)する風潮が残っていた。そこで大学に入学後は学生運動に参加しました。政治やロック、前衛的な演劇とか、そんなものが混沌と逆巻く大学に身を置いて、本気で社会を変えようと思っていたし、そのために文字通り体も張っていた。

でも大学を途中で辞められていますよね。

3年、4年と過ぎる間に、まわりの環境も変わっていき、仲間も去って、大学にいる価値を失ってしまって……。ずいぶん悩んだ末に中退したのですが、かといって何をすべきなのかまったくわからない。投げやりな気持ちというわけではありませんが、特に目的もなく放送の専門学校に入りました。

それが現在の仕事を始めたきっかけなんですね。ところで現在、法政大学の通信教育を利用して、文学部の地理学科で学んでいるそうですね。

この年齢になり、やはり卒業はしておきたいという気持ちになって、通信教育を始めました。地理学科を選んだ理由は、撮影の仕事で日本全国、世界各地に行くのですが、「なぜその場所に町があり、その土地ならではの自然があり、人がいて、その営みが行われているのか」を知りたかったからです。人によっては、世界を解き明かす学問が数学や物理だったりしますが、僕にとっては、それが世界の秘密を解き明かすことになると思ったんです。

なるほど。おもしろそうですね。

例えば、埼玉県の川越市にロケに行った際、「蔵がなんでみんな同じ向きで建てられ、北側が鉄板で囲われているのか」と疑問に思う。それは、上州のからっ風のためで、群馬県の方から吹いてくる乾燥した風が火を呼ぶからだ、と。そのような現象がわかると、ちょっと生きていてよかったなという気持ちになりますよね(笑)。と同時に、それを利用した作品、風と人をテーマに何かできないかなという企画のヒントにもなります。

映画監督/演出家 堤 幸彦(つつみ ゆきひこ)さん