社会活動家/法政大学 現代福祉学部
湯浅 誠 教授

「反貧困」などの社会問題に取り組み、「年越し派遣村」村長などを務めた(と紹介した方が高校生の皆さんにはわかりやすいだろうか)湯浅誠さんが今年4月から法政大学の教授に就任。「若い人たちに手応えを感じる」という湯浅先生に話を伺いましたが、意外なことに(!?)“社会活動家”は楽しい座談の名手でもありました。

あらゆる人が互いに支え合う「全員参加型社会」をめざす

湯浅さんは社会活動家として、これまでホームレスの支援や貧困問題などの社会問題に取り組んできましたが、社会活動家とは、どのようなことをするのですか?

湯浅誠さん(以下 湯浅)

ひと言でいうと、社会活動家とは『場』をつくる人ですね。シンポジウムを開くのも『場』だし、お婆ちゃんたちのお茶飲み会をするのも『場』。『場』をつくると人々が集まってきて、出会って、新たな関係ができて、そこで新しいことが始まる。そのような『場』をつくることが活動家の活動ですが、そのなかでも社会問題の『場』をつくるのが社会活動家ということになりますね。

現在は何をめざして、どのようなことに取り組んでいるのですか?

湯浅

めざしているのは全員参加型社会です。少子高齢化が著しく、社会のなかで様々な役割を担う人が減ってきているため、その担い手を増やさないと、社会が回らなくなってしまいます。それにもかかわらず現実には、例えば介護離職する人が過去5年間で50万人もいて、今後どんどん増えていく。これは社会の損失ですよね。だとしたら、そういう働き続ける意欲も能力もある人が働き続けられるようにしていかないといけない。
そのような問題が、社会のあちこちにあります。子どもの数は減っているのに、経済格差の拡大で子どもの貧困が増えており、それが学力や学歴に影響を与えている。そういう子どもたちが頑張れるようにすることも必要です。また高齢者や障がい者の人たちにもできることはいろいろあるし、ホームレス、ニート、引きこもり、性的マイノリティー、DV被害者など、いろいろな人たちによる担い手を増やしていく。全員参加型社会の実現に向けて、そういった人たちの力をどう引き出すか。どうやってその場をつくるか。私たち自身の広い意味でのサポート能力が大事になってくると思っています。

今年から法政大学の教授になったのは、どのような理由からなのでしょうか?

湯浅

これまでずっと活動を続け、本も書いたりしてきたけど、まだまだ私たちの言葉が多くの人たちに届いていない。内閣府参与をやったときに、そのことを強く感じたんです。それまでは「多くの人は、なぜ俺たちの問題を理解してくれないんだ?」と思っていたのだけど、そうではなく、「どうしたら耳を傾けてもらえるだろうか?」という問いの立て方をすべきだと考えるようになったんですよね。そこで、私たちの活動の《外》にいる学生たちにどう届けられるか。私にとってもチャレンジングなことだったので、教授就任の話を引き受けたわけです。

先生は「教えない」授業で困るほど「気づく」学生たち

大学では、どのようなことを教えているのですか?

湯浅

先生にはなったけど、とにかく私は何も教えない(笑)。授業では『社会問題論』というのを持っているのですが、そこでは「社会問題って何だろう?」というのを考えてもらいます。授業ではまず、自分の過去を振り返ってもらい、例えば、お母さんが具合の悪いときに食事の用意をしたとか、自分が頑張ったことやつらかったことなどを挙げてもらいます。で、そういうことの先にどのような問題があるかを考えてもらい、医療の問題や介護の問題、人によっては教育の問題や、いじめの問題など、いろいろな社会問題につなげていきます。


そのような自分と接点のある社会問題をリストアップした後、「その問題を考えることに熱がこもるか」「どのくらい生死に関わる深刻度があるか」あるいは「どれほど多くの人に関わる問題か」、自分のコミットメントと深刻度と普遍性を点数化してもらいます。そして、そこから一つ社会問題を選び、では「それによって誰が困るのか」「それが改善されると、どういう世の中ができるか」「その原因は誰が、どのようにして作ったのか」などを考え、書いて、周りの人と話し合ってもらう。私は例を出してプロセスを管理するだけで、中身は全部、学生自身で考えてもらうというやり方ですね。

学生自身の気づきを促すということですか?

湯浅

そうですね。学生には匿名でリアクションペーパーを出してもらうのですが、それを見ると実際「気づいた」という反応は多い。「社会問題って案外、自分とつながっていることに気づいた」とか「Aという問題とBという問題がつながっていることに気づいた。どんどんつながっちゃって困った」とか。私があれこれ教えるより、自分で考えたことは学生のなかにちゃんと残りますから。

そのような授業を通して、どのような学生を育てたいと思っていますか?

湯浅

問題発見ができて、その解決を試行錯誤できる人。試行錯誤するなかで、解決のための《正解がない》ことを体で知ってもらえれば、と思っています。今の世の中、いろんなものをバカにした言い方が優勢ですよね。でも、正解がない問題に自分で取り組んだことのある人は、その大変さがわかるから、簡単に人をバカにすることをしなくなる。そういうふうになっていくことが理想ですね。

湯浅さんは別なところで「能力のある人は、それを自覚して活用してほしい」という話をされてますよね?

湯浅

その話も学生にします。私がずっと関わってきた貧困状態の人たちから見ると、経済的にも学力的にも恵まれている学生が多い。だからといって、後ろめたいとか思う必要はまったくありません。ただ留意してほしいのは、例えば、とても能力の高いデザイナーがいるとします。何十万円、何百万円を払ってでもその能力を買いたいという人たちがいるかもしれないけど、そういう人たちだけを相手にしていたら、高いお金を払っている人の間でしかその能力は活用されない。現在のような貧富に二極化した社会では、下の方の人たちは、お金がないのでPRも下手だし、人も集められない……みたいになっている。だから、1割あるいは1%でいいので、その能力をタテにも回してほしい。すると、そのデザイナーが一人関わることで、お金もなく、PRも下手なNPOがパッと世の中に注目されたりする。そういう世の中の流動性を、自覚してつくってほしいという話をします。